こんな印刷できます > 写真家・羽田誠様の写真集 “Baumkuchen”

河内屋(カワチヤ)の「印刷作品づくり」の事例  - 写真家・羽田誠様の写真集 -

はじめに

河内屋(カワチヤ・プリント)では、FMスクリーニングをはじめとしたオフセット印刷や活版印刷シルクスクリーン印刷箔押し印刷など特殊印刷を総合的に組み合わせた印刷作品を多数手がけています。

そして、そうした印刷作品のなかには、フォトグラファーやグラフィックデザイナーなどさまざまな視覚分野のアーティストの作品集も数多く含まれます。

 

今回はフォトグラファーとして雑誌や商業写真の分野で活躍しておられる羽田誠様がプライベートな作品集として出版された写真集“Baumkuchen(バウムクーヘン)”を例に、河内屋(カワチヤ)がクリエイティブな作品に対してどのようなこだわりを持ち、どのようなスタンスで印刷物を制作しているかをご紹介しましょう。

 

羽田誠 写真集 “Baumkuchen” について

羽田誠 写真集 "Baumkuchen" 

 

“Baumkuchen”は、写真家・羽田誠様が「近くて、ここではないところ 遠くて、どこでもないところ」をテーマとして制作された写真集です。見過ごされていく「素」のものごとの中に風景を見出し続ける写真家・羽田誠の美しい作品世界にぜひあなたも触れてみてください。

詳細は下記Webサイトでご覧いただけます。

http://makoto-hada.com/

 

(以下の文章は弊社代表・國澤 良祐の談話をもとに再構成したものです)
 

写真集をめぐるフォトグラファーとプリンティングディレクターの想い

写真集をめぐるフォトグラファーとプリンティングディレクターの想いについて語る弊社代表國澤 良祐

 

羽田様はふだん商業写真家として雑誌や広告物などで作品を発表しておられますが、それと並行してフォトグラファーとしての作家活動も長年続けておられます。 これまでに写真集を何度も発表しておられますが、そのうち2作品を河内屋(カワチヤ)にご用命いただきました。今回の“Baumkuchen”はプリンティングディレクター(印刷責任者)として手がさせていただく羽田様の3作品目になります。

 

“Baumkuchen”は、「ブルーからエメラルドグリーンにかけての淡い色調をベースとした、統一感のある作品世界を構築したい」という羽田様のコンセプトに基づいて制作することになりました。

 

印刷媒体を手がける人なら誰でもご存じのように、透明感のある水色や空の抜けるような青などはもっとも再現が難しい色とされています。

特にこの作品集は空・水・雪といったモチーフが多く、淡い色彩のデリケートなグラデーションをオフセット印刷で表現するという高い難易度の印刷を求められました。

ハイライト部分から中間色までなめらかにグラデーションがつながり、トーンジャンプを発生させてはいけないというのは実に印刷屋泣かせの注文です。

 

しかし、だからこそ印刷に責任を持つ私たちが取り組む値打ちがある作品ですし、「河内屋(カワチヤ)ならできる」と信用して任せてくださった羽田様の期待を裏切ってはならないとの想いもありました。

 

河内屋(カワチヤ)が得意とするFMスクリーニングは、製版の段階でドット(網点)を生成する技術に特徴があります。

従来の印刷物はAMスクリーニング(色の階調を網点の大きさで表現する技法)で印刷されますが、FMスクリーニングでは色階調をドットの数で表現するため潰れが発生しにくいのです。またAMスクリーニングではせいぜい175線(1インチあたり175個の網点を並べることができる解像度)であるのに対し、FMスクリーニングは600線という超高精細度が実現できます。

この技術によって、「白い霧の中の、雪面と空の境界線」といった繊細極まりない印刷表現が可能となりました。 “Baumkuchen”は、FMスクリーニングなしには印刷不可能な写真集だったと思います。

 

また私(國澤)個人としては、どうやって前作・前々作を上回る印刷作品にするかという課題もありました。これは技術的な問題だけでなく、「印刷物としての作品価値」を生み出す、印刷クリエイターとしての創造性が問われる部分です。

 

 

作家のイメージを再現するために入念な打ち合わせで世界観を共有

羽田様は現像作業の「焼き味」を大切にしたいとのことで、デジタルではなく銀塩写真で作品をおつくりになります。

銀塩写真ならではの味わいはデジタルカメラでは表現できませんから、羽田様のように現像工程にこだわりを持つフォトグラファーは今も少なくありません。

 

一般に、印刷会社が銀塩写真を扱うときはポジフィルムやリバーサルフィルムなどをお預かりし、それを忠実にスキャニングしてデジタルデータを作成します。

しかし「作品」としての写真の場合、単に忠実にスキャニングを行えばいいというものではありません。

 

写真展に展示されるような一点物の写真作品のクオリティに印刷を近づけるためには、印刷に責任を持つプリンティングディレクターが作家の意図や作品のコンセプトを理解し、最終的な印刷の仕上がりをイメージしながら、そこから逆算してスキャニングや色補正を行わなくてはなりません。

そのためには作家とディレクターがイメージを共有するための入念な打ち合わせが必要です。

 

個々の写真に対する作品解釈、表現上のポイント、構築したい世界観。

そして一冊の写真集としての構成や完成度。

装丁を担当するデザイナーも交え、何度も徹底的に話し合いを行いました。

「それはできる」「それはできない」「こうしたほうがいい」「難しいだろうがなんとかしてほしい」。 お互いに遠慮のない率直な意見の応酬です。

 

打ち合わせをし、構想を練り、スキャニングしたデータのチェック。このくり返しで1か月が過ぎました。

 

 

作家のイメージを実体化するための色校正

 

最初の1か月は、手を動かす前に頭を働かせるのが主でした。 次の2週間は、共有したイメージに基づいて簡易校正(印刷物の刷り上がりはこうなるだろうと思われる状態の作品を簡易校正機でプリントアウトすること)を行います。

 

羽田様に簡易校正をチェックしていただき、色補正の指示を出していただきます。それに基づいて色補正を行い、OKがでるまでこれをくり返します。今回は2週間ほどかかりました。

 

印刷というものは、ここまでに非常に時間がかかります。実際に印刷にとりかかってしまえば作業は速やかなのですが、「これをつくる」という想いを形にし、それを基準と決めるまでの時間が長いのです。

 

「こういう作品をつくりたい」というイメージは、最初は作家の頭のなかにしかありません。

プリンティングディレクターはコミュニケーションを通じてそのイメージを共有し、そのイメージを実体化しなくてはなりません。工業製品としての印刷物が完成しても、作家のイメージと大きなズレがあっては無価値なのです。

 

「イメージ通りの印刷物ができた」と作家に喜んでいただくために、ありったけの知識と知恵と経験を投入する。それがプリンティングディレクターの仕事であり、クリエイターとしての創造性をもっとも発揮できるフェイズでもあります。

 

 

用紙選び、加工…印刷作品の完成イメージが出来上がる

“Baumkuchen”の用紙には、「ユーライト」というA2コート紙の135Kgを使いました。これはいわゆるマットコート紙で、紙厚180μm、白色度は85%です。

マットコートを選んだ理由は、紙自体の光沢がおさえられており、落ち着いた雰囲気を持つ紙だからです。真っ白過ぎない「生成り感」が作品世界に調和するだろうとの思いもありました。

 

そして、この写真集には全ページに「ニス引き」をしました。全体にしっとりとした深みと艶を与え、淡い色と濃い色のコントラストがしっかりするのではないかというアイディアです。

ニスをひいたものとひかないものの両方で本紙校正(本番の印刷と同じ用紙、同じ印刷機を使って試し刷りしてみること)を出してみたのですが、ニス引きは私が思ったとおりの効果をうまく発揮してくれました。

 

羽田様に確認していただいたところ、「これ(ニス引きの方)で行きましょう!」と快諾していただけました。これで私の頭の中で“Baumkuchen”の完成イメージが出来上がったことになります。

 

 

1ページごとに刷り出しで詰め合う作家と印刷屋

 

製版(CTP)、本紙校正、印刷…と作業は進みます。

印刷の刷り出し(本番の印刷で、最初の一枚を印刷すること)には羽田様も立ち会われました。

刷ったばかりの印刷物は、インキが完全に乾ききっていません。インキが乾くと色目や質感が変わりますから、乾燥を待って羽田様に最終チェックをしていただきます。1ページOKが出たら残りを全部刷り、また次のページをチェックしていただく…というくり返しです。丸3日間かかりました。

印刷する方はもちろん、作家にも忍耐力や集中力が求められます。これが印刷による作品づくりの産みの苦しみといえるでしょう。 しかし苦労の甲斐あって、“Baumkuchen”は会心の出来となりました。羽田様にも「想像以上の出来映え」とお褒めの言葉をいただきました。

 

印刷に責任を持つ私としても「前作・前々作よりも全体に色調の統一感がすぐれている。紙の色・質感とニス引きが作品世界の雰囲気と高い次元で調和した」と、自信を持って合格点を与えられる仕上がりになりました。

 

 

試行錯誤は将来への先行投資

装丁もまた、写真集の重要な要素です。

“Baumkuchen”の装丁は、作品世界に近い淡いブルーのクロスを使うことになりました。またタイトルはデボス加工(用紙を押し込んでへこみをつくり立体感を持たせる技法)で表現したいとの羽田様の意向でした。

 

さまざまな種類のクロスを取り寄せ、デボス加工のテストを行います。単にタイトル部分をへこませただけでは可読性が低かったため、シルクスクリーンで文字を白く印刷してから押すということも試してみましたが、どうも質感がしっくりきません。試行錯誤の末、3mmほどの高さがある銅板の活版をつくり、白い顔料箔をつかって箔押し印刷をしてみたところ、ようやく満足のいく出来映えになりました。

 

このほかにもさまざまな技法を同時並行でテストしてみましたが、白の箔押しがもっとも写真集の世界観の雰囲気に調和するという結論に達し、羽田様にも納得していただけました。

 

このような試行錯誤には想像以上のコストが発生します。ビジネス的にいうと、テストはあまりやらないほうが採算性は高い(こうしたテストはお客様のご要望でない限りお客様に費用を請求できないことが多いのです)。しかし、いろんなことを試してみないと河内屋(カワチヤ)の技術が向上しませんし、若い社員の発想力も伸びません。このため、テストにかかるコストは将来的なノウハウ蓄積のための先行投資であると割り切り、時間と労力を惜しみなく注ぎ込んでいます。

 

製本はPURにしました。これはポリウレタン系の特殊な接着剤を使う製本技術で、本の開きがよく、丈夫で環境にも優しいという長所を持っています。長きにわたって持ち主の手元に置かれ、くり返しページを「のど」まで開かれて鑑賞されるという写真集の特性を考えた結果PUR製本を選びました。

こうして3か月におよんだ写真集づくりの全工程をようやく終了することができたのです。

 

 

河内屋(カワチヤ)は未来の印刷ラボ

 

私は、河内屋(カワチヤ・プリント)という会社を「印刷ラボ(実験室)」だと捉えています。 いろいろなジャンルのアーティストが集まってきて、うちの社員といっしょに「ああでもない、こうでもない…」と作品を生み出していく。「これは是非世の中に出したい!」と思えれば、損得抜きで後押しをする。河内屋(カワチヤ)をそういう場にしたいと思うのです。

 

世界のアーティストたちをうならせるような作品を出していくことで、河内屋(カワチヤ)というブランドが世の中に広まっていく。そしてより多くのアーティストやクリエイターが集まってくる。それが私の夢です。

 

“Baumkuchen”のような印刷作品を手がけていくことで、河内屋(カワチヤ)ならではの「提案力」が高まっていきます。今後は印刷会社というより印刷アドバイザー、印刷コンシュルジュのような仕事に軸足を移していくことになるでしょう。

 

これからは腕自慢のアートディレクターやグラフィックデザイナーと組んで一緒に作品の作り込みをやっていきたいとも思いますし、あるいは「印刷分野に特化した広告代理店」のようなこともやるかもしれません。

 

そして、たとえばメーカーやショップと組んで、商品の包装、店頭POPやポスターやパンフレット、カタログ、会社案内、そして名刺に至るまであらゆる印刷物をトータルプロデュースするような案件も手がけたいと思っています。

 

 

印刷に紙ならではの「プレミアム」を与えたい

 

新しい広告代理店さんと取引を始める際、たいていの場合、真っ先に「どんな機械を持っていますか?」と聞かれます。残念ながらこれは、いまだに印刷業を装置産業だと考えている証拠でしょう。

しかし、現代はもうそんな時代ではありません。機械を持っている印刷会社はどこにでもあるし、河内屋(カワチヤ)にも優秀な協力会社がそろっています。大事なのはクリエイターの要求どおりの作品をプロデュースするためのアイディアやノウハウであり、イメージを実体にするためのスキルです。

 

その点に関して、私はほかのどんなプリンティングディレクターに劣るとも思っていませんし、うちの若い社員にもそのノウハウを惜しみなく承継しています。それが河内屋(カワチヤ・プリント)の強みであり、ほかの会社に真似のできない大きなアドバンテージだと思っています。

 

さて、昨今はスマートフォンやタブレットの普及で紙による印刷物の「実用性」に対する需要が落ち込んできています。印刷業界を見ても、それで苦しんでいる印刷会社が多いようです。

しかし私は、「デジタルにできることはデジタルに任せればいい」と思います。

紙は貴重な資源です。スマホの画面でパッと見てパッと消すような情報に貴重な紙を使うのはもったいない。

 

わざわざ紙に印刷をする以上、その印刷物は特別なものであってほしい。いつまでも手元に置いておきたいような、もったいなくて捨てられないような、そんな「プレミアム感」を印刷物に与えたい。私は常にそう思っています。そう、たとえばこの“Baumkuchen”のように。印刷物は、「何のインターフェースも必要とせず、誰でも手に触れて楽しむことができる」というデジタルにはない強みを持っています。

 

デジタル全盛の今日だからこそ、「印刷物とは贅沢なものなんだ、贅沢を楽しむのが印刷の魅力なんだ」と、ぜひ皆さんの認識を改めていただきたいと思います。

そして私たちは、印刷物を手にしたときの喜び、ページをめくるときのワクワク感、美しいものを見たときの感動と驚きを追求しながら、これからも「新しい印刷の可能性」に挑み続けていくことでしょう。

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