株式会社河内屋(カワチヤ・プリント) 代表 國澤 良祐

 

印刷クリエイター國澤良祐

 

印刷クリエイターのこだわり

私は「印刷会社の社長」というよりも、ひとりの印刷クリエイターです。
若い頃から「印刷の虫」。国内外のいろいろな印刷物を見ては「どうやったらこんなものがつくれるのだろう?」「自分だったらもっともいいものが創れるのではないか?」と工房にこもって試行錯誤を重ねてきました。いまも経営の仕事より現場仕事の方が好きです。印刷機に囲まれ、工房独特のインクの匂いに包まれている時が一番心が安らぎます。

 

最近は、手先を使った細かい技術は若い社員にできるだけ任せるようにしています。そうでないと彼らの技術が磨かれない。私がやった方が早くてキレイだという歯がゆい思いもありますが、それが「人を育てる」ということだと思っています。ただし、今でもここ一番こだわりたい仕事の場合は、自分で製版から製本まで手を出してしまいますね(笑)。特色インクの配合まで自分でやります。

 

印刷というのは総合技術であり、総合芸術です。デザインだけ、あるいは活版印刷オフセット印刷といった特定の技術だけに精通しても印刷全体がわかったとはいえません。紙を選び、インクを載せ、加工する。特殊印刷や特殊加工技術にもいろいろなものがあります。これらの知識や技術を俯瞰的に修めていなくては、「求められるテーマに一番適切な表現法は何か?」がわからない。印刷の仕上がりが読めない。それでは一流になれないのです。ですから、当社では営業スタッフも現場作業をひと通り経験してからでなくてはお客様を訪問させません。

 

技術か センスか

印刷会社にとって一番重要なのは技術か。それともセンスか。難しい問題ではありますが、私は「両方重要。ただし技術が先だ」と考えます。

 

当社のお客様にはグラフィックデザイナーやカメラマン、アーティストの方が多数いらっしゃいます。こういう方たちは印刷の色・質感に非常にデリケートです。もちろん好みやセンスはさまざまなのですが、最低限、お客様の注文に応えるには印刷の基礎技術に忠実である必要があります。基本があっての応用ですから、新入社員が入ってくると、まず基本を徹底的に教えます。

 

基本ができたら応用です。お客様の注文に応えるだけでなく、要求以上のものをご提案する。ここではじめてセンスの有無が問題になってきます。

 

ですから「ネットで注文を受け、宅配便で納品」といった仕事の仕方ではなくお客様とのコミュニケーションを大事にしたいと考えています。印刷物は、人が手にとって何かを感じていただくものです。河内屋(カワチヤ)では極力お会いしてお客様に一番合ったご提案をしていきます。

 

地図にない街を探すには?

 

河内屋(カワチヤ)の工房では、多くの若い社員が頑張ってくれています。新卒求人の約半数が芸大出身のクリエイター志望者。「自分の作品づくりのために印刷を極めたい」という欲深い人たちです(笑)。

 

ある社員は油絵を描く事を趣味としています。油絵というのは、カンバスに絵の具を盛り上げて作品をつくっていきます。筆だけでなくペインティングナイフなども使って画面に陰影や質感、表情を与えなくてはなりません。最新の高級美術印刷でもこのような表現は不可能ですが、彼はそれを可能にするために当社で働いているのです。

 

「地図にない街を探すには、最初に地図が必要」と申します。彼はまだ、「既存の技術」という地図を読んでいる段階です。そして地図がすっかり頭に入ってしまったら、それから未知の、自分だけの街を探すのです。

 

河内屋(カワチヤ)は小さな印刷工房に過ぎません。しかし、イタリアのルネサンスが始まったのもフィレンツェの小さな美術工房からでした。ボッティチェリ、ミケランジェロ、ダ・ヴィンチ。こういう大芸術家もみんな最初は小さな工房からスタートしています。

 

河内屋からも、いつの日かそんな世界的クリエイターが誕生して欲しい。「何を大げさな」と笑われてもかまいません。私は真剣にそう夢見ています。

 

印刷クリエイター國澤良祐